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まんなかに生れたる栗のひとつぶはおのずから身をひらたくしたり 室井忠雄
銀漢をうつすら纏ふビアガーデン浮遊してゆく椅子のありなむ 渡英子
四分の一の西瓜購ひ食(たう)べをりいかなる人らと分け合ふかしらず 蒔田さくら子
産地直送とあれど産地はいづこともあらず 「松茸」の文字のさびしき 藤本喜久恵
近鉄夏の将棋祭り
少年が差しだす色紙にひといきに羽生善治は「玲瓏」と書く 橘夏生
コンビニにたばこを買ひにゆく途中だしぬけに来てゐる秋と逢ひたり 小池光
一冊の本引きぬきし本棚のすき間に秋の闇生じたり 宮崎郁子
勢いを殺す技術というものを噴水にまざまざと見ている 生沼義朗
透明の傘をひらけばぱらぱらと曇天崩れて 花山周子
(花山周子歌集に寄せて) 山下雅人
ゆうぐれの卑弥呼(ヒミコ)靴店Gパンにうすものまとう少女を誘(おび)く 木曽陽子