青果店の匂いが風にのりてくる朝日のなかの会話うつくし 鰐田茂雄
単純な影持つ吾なり日盛りの下りホームに電車を待てば 佐山みはる
付箋紙の糊のにおいのかなしさよかなしみにひたりたくて嗅いでる 今井ゆきこ
川(メ・ナーム)を行き交ふ船を統べて吹く少年のぎんの笛の音冴える 関口博美
今までに暮らした町のそれぞれに「かどや」があって 今度は酒屋 砺波湊
アドレス帳の父母(ちちはは)の欄にしるしおく大谷本廟三F−D−7 田端洋子
起きてゐなければ眠ること得ず眠らねば起きること得ず此岸のわれら 田中曄子
亡き人と逢える気がする静かなる古本街を訪ねたき午後 益岡勇