ふる寺のきざはしに身を平(たひら)めて頬に木目の近づくうれし  酒井佑子



ひっくるげっちょに脱ぐなと母に言われたるワイシャツを脱ぐひっくるげっちょに  室井忠雄



手のひらに載るごと小さき老媼の道ゆく見れば母と思ひぬ  大橋弘



こんなにも痩せたる猫の背(せな)を撫づ痩せることより悲しきはなし  小池光



三階に住みて来しかば四階より見ゆる去り際の町あたらしも  川本浩美



どうせすぐ消えるさ虹は見える人も見えない人も置き去りにして  八木博信



ブランコが空の高みにいたるときとほくまたたく戦争が見ゆ  真木勉

             

                                                    (2009.4.30.記)