今からはもう染まらない今からじゃ染みは落ちない中年は布  谷村はるか



恵方巻(ゑはうまき)ものも言はずに頬張れるこの充実を卑弥呼は知らず  和田沙都子



土地ごとにちがう神話を守るらしゴミ置き場には鍵がかけられ  滝田恵水



冬雲を目で追うことも旅に似てジャズの流れる喫茶店の中  守谷茂泰 



木枯らしに向かひ自転車漕ぐ時に朝露のごとく泪は生れぬ  平居久仁子



蕗の花わが手の平に青みつつ小さき春の重みとなれり  池田弓子



ビルの壁夜がのぼって覗くからぽっと恥じらいの灯が点るのだ  森谷彰



黒色に包みそこねた両の手をもてあましたり 喪服の男  蜂須賀裕子



赤ちゃんの泣き声のする葬式にふしぎふしぎな安らぎのあり  松木



残りものラップにつつむまた明日もこの世にあること疑いながら  会田美奈子



子らが上がりし湯船にひとりしりとりの続きしており「とんかつ、つきよ・・・」  柏谷市子



側溝に打ち棄てられて鮮らけきサンタクロースの緑の義足  生野檀



候補者のポスターぬっと現われぬ不燃物ゴミ集積場に  森下美治


             

                                                    (2009.4.29.記)