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片時もじっとしてなどおらぬ子を熱源としてわれら廻れり 鶴田伊津
沈みゆくエスカレーターことさらに急ぎ足にて沈む人あり 柚木圭也
環境の環とは何ぞ ヒューマニズムゆえに鯨を守る人びと 生沼義朗
われを入国させるのに二時間を要する中国にお礼を言ひつ 山寺修象
負け投手がくしやくしやの顔でわらふなり女子はさういふものにはよわし 高澤志帆
教卓にバドミントンのシャトルあれば隅へ寄せつつ授業を始む 大森益雄
片便り夥しくも出ししこと生涯の悔いにあらず また、春 西勝洋一
バス停にときにホームに亡き誰彼みかけてすでにここは他界か 蒔田さくら子
配達を終えてバイクの少年の知るや荷台の乳のさざなみ 八木博信
目薬を打つとき誰もしずまりておおいなるもの待つ姿する 八木博信
疾駆するものの徴や 馬にありわれにあらざる浄きたてがみ 原田千万
書いてゐるときいちばん心落ち着くと斎藤茂吉いへりわが子に 小池光
ステーキ肉の個体識別番号は牛のかなしき眸思はする 三井ゆき
(2009.6.2.記)