きのふ飛込自殺ありけり西永福5号踏切春の大底  酒井佑子



触感のちがふつめたさ白秋の詩碑と歌碑とに触れて来たれば  渡英子



誰にさえ人を殺めし祖がありき山は広がる扇のごとく  八木博信



自我のごと開き廻れり学童の傘つぎつぎと開かれてゆく  水谷澄子



銃刀法改正の文書配られて朝礼始まる六月一日  斎藤典子



蟻ありて蟻地獄あることはりを人のいとなみのかしこに重ぬ  小池光



くらい路地くらいあかりの「占」に影のやうにもひとが添ひをり   吉岡生夫



直截なる怒りにけふの入日射す「忠告、犬のフン持つていけ」  高田流子



朝の池のみづのひかりの乱反射むきだしの腕にするどく揺れる  金沢早苗



二歳児が草に向かって用を足すリアル小便小僧と化して  村田馨



四十年を経て帰り住む古里にわれは如何なる客人ならん  谷口龍人



あまき香をあやつるをとこ割り箸のからだに白く綿あめを巻く  春畑茜



煮こごりの箸をすべりつひとりなる日々にようやく馴染みつついて  佐藤慶



鞍作止利(くらつくりのとり)が鑿(のみ)もつ勢ひは幾世をこえて仏のまなこに  人見邦子



あぢさゐは病む子を抱く母のやうかつては誰にもありにし乳歯  三井ゆき



                                                             (2009.9.11.記)