公園のベンチで寝ている人がいて靴はきちんと揃えられいる  大矢信夫



片目出し体はすべて覆われる脳は手術を想像で見る  福田ミノル



棚の位置また低くして房総の海辺に暮らす伯母九十歳  藤間明世



南国の土産のひとつ「星の砂」我が手のひらを宇宙となしぬ  直井美代子



公園のベンチにメガネ置かれある顔はいづこをさまよひゐるか  西尾正美



「実は今朝も死体に会つて来たのです」疲れ気味にてT君は言ふ  さつき明紫



幼児の帽子ひろってやるように いかぬかとかくこの世のことは  三浦金雄



過ぎし日を悔ゆるにあらぬやさしみて「東京物語」幾度(たび)も観る  渡部亜矢子



三方の窓より渡れる風にふと仏(ふつ)語を話すガラスの風鈴  高木律



ゆふがたの雨にふとんが濡れてゐるこのごろ笑はぬあのひとの家  岩崎堯子