木の穴に岩の狭間に狐狸が住むしめ縄張れば神々が住む  吉原俊幸



灯台をめざして歩くゆうぐれに海の側からわれら老いゆく  中井守恵



麦わら帽九月の海へ投げこむはこれから君へと駆け出す合図  栃木茂美



夫とわれの間(ま)に水溜まりあれど今飴坊(あめんぼ)およがす余裕もできて  谷垣恵美子



わたくしと同じ気持ちの影を連れ午前一時のコンビニへゆく  中野順子



のぼりくる最後の泡よソーダ水 がんばったよね逃げたんじゃない  藤井眞佐子



終末は引き延ばされて今宵また目蓋を閉じる小地震ののち  渡口航



ビニールの傘にしたたる雨の粒魚体となりて鰭動きだす  石川普子



いちまいの液晶テレビが我が家にも届けられたり絵画のごとく  薄葉茂



終はりへと急ぐ花火の打ち上げの綺羅かなしまむ天の過呼吸  本田鈴雨



米国の矛盾と共に生きて死すR・マクナマラ齢(よはひ)九十三歳  伊吹礼子