音もなく降る春雨のやさしさに滅菌済みのガーゼをあてる  今井ゆきこ



窮屈で痛いブーツと脱げるほど緩きサンダルわれら姉妹は  有朋さやか



朝もやにまどろむ亜細亜の田園を駆け抜けにけり黒き近代  太田賢士朗



一列に西に向かへる鉄塔は帰還してゆく兵士のごとし  野上佳図子



激するまま子らを叩きて眠る夜は我が少年も並びて泣けり  工藤足知



消防車救急車そして霊柩車パトカーと来て一話終りぬ  萩島篤