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生徒らの倍生きている桜の樹クラス写真に共に写りぬ 岩下静香
ハンガーに下げるコートの皺ふかしゆき止まりなる線が交叉す 紺野裕子
いにしへの璧の翠(みどり)の禾そよぐこの麦畑が行政の淵 武下奈々子
朔太郎は商品にならずゴールデンウィークなれどさびし文学館 斎藤典子
重版の決断ののち活気増すわが仕事場に電話のひびく 宇田川寛之
仏頂面のこの店員も父であり息子でありよき夫であらむか 篠原和子
蟻の尻みて進みゆく蟻の列石のかたちに沿いて曲がりぬ 宮崎郁子
音楽のこもるごとくに廃校は若葉の中に閉ざされており 守谷茂泰
「離婚した○○」などと喚ばれたり一度の生を幼馴染みは 真木勉
鉛筆を噛めるは自己を噛むこころさはあれ吾子の筆入れを閉づ 春畑茜
効率性えらばずどんな所へも余生といふは列車にて行く 三井ゆき
発光しループし大橋ジャンクション異界に入り異界より出る 藤原龍一郎
九十九になりたる母をみてをればわれにわが知らぬ笑ひはうかぶ 小池光