必要とされずとも生きのびてやる心を病まぬ誰より太く  生野檀



花火咲き散りにしのちに隕ちてくる闇の重さに母と寄りそふ  有沢螢



いつもそこに静かに立つ木に会いに行く遠き時間に抱かれたくて  御厨節子



「心」という字を書き直し書き直し合格もらえぬまま目が覚める  大橋麻衣子



目的のある人生よかくも強くみどりの窓口に食いさがる婦人  谷村はるか



日清のチキンラーメンにそそぐ湯がすこし足りない夕まぐれかも  有沢螢



座りごこちの悪き椅子にて一日を過ごす 職場はそういうところ  森直幹



釈尊は甘茶を浴びてそれがしは鵯の糞浴ぶ四月の八日  上原元



洗面器入りたるカバンそつと提げわれに附き来る 父の入院  八木明子



何を思い誰を愛していただろう「ノストラダムス」の流行りし頃に  槙村容子