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すつぱだかの母音にすこしづつ喉の力がついてアイからハイへ 本多稜
一滴のインクの青の存在を確かめるごと泣く ひとしきり 鶴田伊津
ドッペルゲンガーがけふもどこかで死んでゐるあるいは東電OLのやうに 橘夏生
信号を守る若者もどかしく見えて追い抜く御堂筋にて 川島眸
おもひたちけふの昼餉に砂糖パンわれひとり食ひてなみだをこぼす 小池光
ぼんやりと点るはよけれ常夜灯影を濃くせぬことのやさしさ 三井ゆき
わが胎動を知る人ありて母と呼ぶほかはなしあはれははそはの母 菊池孝彦
濁るたび澄むを待てるに澄みきりし水をおそれて水濁らせぬ 菊池孝彦
たちまちにわれを包みし白濁の匂い臭豆腐の臭の字のアジア 渡部洋兒
舅姑(ちちはは)の御魂送ると焚く麻幹(をがら)ゆらぎつつ火は夫へ傾く 山下柚里子
三分間殴り合いたりグローブを外せば白き手の青年よ 八木博信
夕闇の色をわずかに吸い込みし再生紙に刷る白秋の歌 岩下静香
上宿山(かみじゆくやま)神社の茅の輪すがすがと匂へるものを子とくぐりたり 春畑茜