睾丸も乳房も垂れている特に神へ祈りを捧げるときに  八木博信



存在を前提として笑いおりたとえばマツコデラックス、クス  藤原龍一郎



ゆるやかに海へとむかふ川であるわたしはぢきにわたしを忘る  阿部久美



肩のちから抜いておほきく息を吐け そら、ひぐらしの声がきこえる  小池光



海鼠腸(このわた)を肴に孤り酌むなへに冴ゆる魂はや生き意地つのる  和嶋忠治



青梅に加ふる蜂蜜滴りの終るを待つも一世(ひとよ)の時間  山下柚里子



山水画にうねりのぼれる径あれば小さき人の歩みが見ゆる  斎藤典子



労働はアダムとイブの受けし罰働かざるもの優雅に遊べ  諏訪部仁



絵葉書のことば滲みて届きたり整理のつかぬ思ひのやうに  宇田川寛之



ダイエットその前その後その前にもどる可能性のあるということ  吉岡生夫



<めありい>のやはらかき音(おん)聞きたくてクラスメートの名を言はせをり  大森浄子



正論を吐けば皆ひと離れゆくわが口臭も嫌われながら  八木博信