さしあたり夜、この不安朝はまた別の不安があるのだきっと  青柳守音



「放浪」の旅などあらず線路づたひにけふは三駅と決めて歩きぬ  水島和夫



鳴りひびく六時の寺の鐘のおと空は大きな声帯である  真木勉



曼荼羅にかくも似てゆく新人事相関図かな吾(あ)にもコピーを  森澤真理



眠れねば鶴にしなれと淡黄の紙のひかりを卓にたためり  春畑茜



あめの降るまへにかならず頭痛して茂吉はながく歌を作りき  山寺修象



ちち母の骨つぼの脇にわが骨つぼあると思えば心安らぐ  松永博之



もうわれはお前を産み直せないから走ってゆけよここで見てるよ  鶴田伊津



グリーンの中の赤唐辛子はぐんぐんと拡大されて石川遼くん  今井千草



バリカンでええかいいですおもてなしの心も安い大衆理容  吉岡生夫



魁皇は「気が優しくて力持ち」斯く観客の信じてやまず  宮田長洋



こころして舐めよと賜びし和三盆のひとかけ昼の舌にころがす  佐々木通代



夕焼けのむこうにまだある幸せを小鳥のように待っております  卯城えみこ



少女らのタバコくわえる河沿いの朝を老人必死にあるく  井上洋



マジックの名前薄るる靴下の足裏見せてははが昼寝す  松村洋子



をかし男ありけりなう。ツイッターでなう。なう。してゐるだけのをとこなりなう。  橘夏生



かに玉のあんかけのやうに吾(あ)をおほふさびしさありて一夜(ひとよ)眠れず  橘夏生