木犀のかをりは反魂香ならむ朝の境内にあまねくにほふ 洞口千恵
歌集一冊書き写したるノートには三年前の力ある文字 下村由美子
月は何のために出ていた 少年を殺めたひとりも照らしきれずに 津和歌子
図書館の本に引かれた傍線を消す引くべきはここじゃないだろう 谷村はるか
わたくしが金木犀と思うまで香りをまとい夜をかえりぬ 会田美奈子
ベッドからはみ出しているカナヘビをつかまえた指、自転車をこぐ足 柏谷市子
ありふれた言葉うつくしファミレスに「いただきまあす」声幼くて 竹浦道子
うしろより行くわれのためさりげなくゆつくりドアより手は離れたり 竹浦道子