大声で叫べば届く距離なれど携帯電話(けいたい)ゆえに局番を押す  有朋さやか



爪痕の残るてのひら力では握れないもの握ろうとして  工藤足知



縋る手のなき吊革を小刻みにゆらし過ぎたり回送列車  佐藤由美



自画像はだれもが暗き顔をして卒業制作展に並びぬ  海野雪



刈田つづく山のふもとに虹立ちて樹々の姿を透かし見せたり  笠原多香



両国の吉良邸跡に来し人等思ひを遂げし如く去りゆく  荒船武文



保育園より騒音消えるまひるまのよい子わるい子とりあえず眠れ  今井ゆきこ



あとから来たヒトにとつて先客はみんな同時にゐるわけである  西尾正美