未来とは明るき日々と思いしにその名かなしき鉄腕アトム  藤原龍一郎



回文の凄まじさよ子らが言うホアンインアホホアンインアホ  足立尚計



「福島の人は来るな」とわが愛車に書かれたりはらからの土地に来たりて  柿沼良訓



原発の作業員らにモザイクをかけて感謝する偽善の案山子  黒田英雄



略奪も起こらぬ国と褒められどおれおれに続く義援金詐欺  前田靖子



みちのくの今年の桜は美しからんおそろしきことひそかに思ふ  小島熱子



びしょびしょに濡れているけど揺れるけど泣いているけど拭く物が無い  武藤ゆかり



我慢づよい粘り強いと誉めごろししないで下さいこの東北を  荘司竹彦



復興の呼号のめりつつしらじらと世界は生きてゐる者のもの  川本浩美



奥の間に座敷童を棲まわせしわれの生家のはかなき最期  越田慶子



地震納まりし後恐る恐るに出でたる道に二人のしかばね  阿部凞子



地震(なゐ)ののちライフラインの断たれにし団地は配所のごときしづけさ  洞口千恵



瓦礫とは捨てたき物のゴミならず捨てたくなきのものの果てなり  小林惠四郎



被災せし動物園の大河馬に気鬱きたりて記事となりたり  中井守恵



シーベルトもベクレルも建屋もトレンチも二ヶ月前のわれら知らざりき  斎藤寛



晴れ渡る四月の空に目に見えぬ放射能ありあると思へず  長谷川知哲



咲かすべき桜の失せし被災地に桜前線は到着したり  田中あさひ



泣くこともかなはぬ被災地の人々を映像に見て易易と泣く  下村由美子



書き直しまた書き直す被災地に住む友に出す短き手紙  永田きよ子



千年に一度の揺れを刻みたるからだを透かす葉桜の陽は  洞口千恵



さくら散つて藤散つて春の闌けるまに不明者ゆ死者にうつりゆく人  渡英子



鯉のぼり泳げよ泳げ被災地に何はなくとも風だけは吹く  薄葉茂