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引き出しの隅にありにし耳かきを使えば古いくしゃみが出でつ 多久麻
みどりごの耳朶(みみたぶ)染むる夕日影車内にしばしの荘厳があり 三井ゆき
見るたびにビルに埋もれて通天閣頑固爺の顔をしながら 川島眸
やまとだましひとはあなかしこまほろばの大和ほろぼすこころとおもふ 菊池孝彦
六歳のむかしばなしを聞きながらじゃがいもの芽をくりぬいている 鶴田伊津
制服のなかに身体を泳がせて新入園児が駆けだして来る 染宮千鶴子
死刑囚が死刑にならずに亡くなった雪降るあさま山荘事件 吉岡生夫
このやうに未来はいつもやつてくる「冷やし中華はじめました」 西橋美保
佐和山を過ぎむとしつつ置いてきた猫をおもへりまさきくあれな 小池光
言うなれば自慢話のような歌ばかり並べて寄越す人あり 西勝洋一