旅に出る後めたさを覆うごとおでんの匂い部屋に満ちくる  林むつ子



らんちうの餌に染ませて与へると冷蔵庫にはヤクルト十本  吉岡馨



砂あらしの中から聞こえてくる声を神託とする占いがある  天野慶



舌を突きたてて炎えぬるビル群のほてりをさませ白き月光  松野欣幸



亡き母を偲ぶ時間の減りたれど母を詠みたる歌の増えゆく  洲淵智子



                                                 (2012.1.19.記)