ついわらうテレビの中の空回り君も君もただ一生懸命  古賀大介



シャボン玉飛んで来たるにだれもいず夕陽の中を歩みいるとき  鳥山繁之



あさなさな廊下に母のゆまり跡さみしきもののごとくに残りぬ  たしろゆう



左眼の下にほくろがあることをはじめて知りぬ遺影を前に  有朋さやか



晴れた日はノズルの先をキリにしてまず虹をみて水撒き始む  牛尾誠三



堂々と蠅が飛んでる食堂でメシを食ふのもひさしぶりなり  西尾正美



川土手の刈られしままの夏草を豚の匂ひと夫は言へり  斉藤満喜栄



いともろき命負ひたる病者へと我はまつすぐ朝をいそぐ  松岡建造



表札に『蘭(アララギ)』とありカタカナでふりがなをふる古き家あり  三田村まどか



ちょうどよい下手さ加減の中学のブラスバンドで祭り開きたり  水島修



くれなゐの唇ひらき死者たちの言葉を語りゐる彼岸花  海野雪



果てのなく降りくる雨の音に濡れ水葬さるるやうに寝ねをり  松岡圭子



公園の椅子に一本の黒傘は執事のように立たされており  堀口澄子



つゆふくむ七月の夜につるされし金のランプのような月あり  田平子


                                                         (2012.1.20.記)