「暑うて暑うて死んでしまう」と言う夫よ死ぬるもんなら死んでみせてよ  山本照子



もぎ立てのトマトとともに手の平に太陽の熱じわりとつかむ  中島敦子



春川ますみの乳房のやうに縦に揺れ巨きあぢさゐ颱風告げる  黒田英雄



絶筆となりし歌まで二頁となりて表紙のハトロン紙なほす  長谷川知哲



住み慣れたこの世とともに運ばれぬメダカは居間から玄関先に  小林惠四郎



会議室の時計を合はすぢきにまた五分遅るることと知りつつ  関口博美



住み慣れたこの世とともに運ばれぬメダカは居間から玄関先に  小林惠四郎



をりをりの風に尻尾をあそばせて窓枠に嵌まりうすねむる猫  さとうひろこ



市営バス運転席のかたわらにひっそりと在るあおき目薬  中井守恵



空車(からぐるま)三台くらき山坂にとどまりをりぬものをも言はず  田上起一郎



朝あさを「おくやみ」欄に己が名を探すがごとに眼をこらし見る  五十嵐敏夫



蝉の声遠く聞きつつ母われの葬儀に着るべき娘の喪服縫う  四屋うめ


                                                      (2012.1.20.記)