いちぢんの風  伊波虎英


今もまだ阪神電車に揺られゐむすこし疲れて岡八朗


注ぎたる水にグラスはぐらつきぬ胡麻ひと粒のもぐりこみゐて


みどり濃き菠薐草につぶしつつ胡麻をふらせし母のおゆびは


海原のかなたに生れて海原のはるかに果つるいちぢんの風


風船が連れ去りてゆくわたくしの子どもではない誰かの子ども


風船の浮力にふとも慄きて子は握りたる手をひろげきる


事故死、自死、老衰死はた失踪のありて風船の一生波乱


明日にも揺れだしさうでコスモスの咲くカレンダー切り捨てがたし