【固有名詞の一首 自歌自解】

いつもいつも「次は次屋(つぎや)」の案内に笑ひてわれらバスに揺られき


  〈われら〉 とは、父母と妹とぼくの四人。
三十五年以上も前のぼくたち家族四人のこと
だ。当時、近所にショッピングセンターなど
なく、ちょっとしたお出掛けを兼ねた買物と
なると、バスで阪神尼崎駅まで出て駅前の商
店街をぶらぶらするのがわが家の定番だった。


 自宅近くのバス停から乗った阪神尼崎行き
の市バスは、途中で 〈次屋〉 という停留所を
通る。車内に「次は次屋、次屋……」と案内
放送が流れると、決まって母が「次は次や、
ってあたりまえやんなあ」と笑いながら言い、
そんな母に父や妹も、車窓の景色に夢中のぼ
くも「ほんまや」と笑いながら応えたものだ。


 歌には 〈いつもいつも〉 とあるけれど、こ
んなふうに笑い合ったのは行きしなだけだっ
たように思う。きっと片道三十分ほどとは言
え、家族でのたまのお出掛けの高揚感がぼく
たちをそうさせたのだろう。 (伊波虎英)