◆八木博信第1歌集『フラミンゴ』(フーコー詩歌句双書 1999年) 331首


昨年、第45回短歌研究新人賞を受賞した作者が、20代に
主に結社誌「短歌人」に発表した歌を中心にまとめたもの。


装丁の可愛らしさとは裏腹に、非常に刺激的な歌集だった。
全体的にやや歌の粗さが目立つ感じもするが、若さのパワーを感じた。
新人賞受賞作「琥珀」よりも、受賞後第一回作品「明日への祈り」の方が
個人的には好みだったし、作者のカラーが色濃くあらわれていると
思っていたのだけれど、『フラミンゴ』を読んでその思いを強くした。


僕が詠む(あるいは、詠みたいと思う)歌と共通のものを感じたためか、
あとがきの「十代の後半短歌開始時から既に私の詩句には、
身辺雑記的なものはあまりなく、虚構と創作が多くを占めていました。
歌句を創ろうとするとき、ドラマがどこからか湧いてくるのです。
つまり、創作方針とか文学的思想といったものではなく、
これは自らの資質であろうと認識しています。
そして私は、自分のこの適性に正直でありたいと思います。
人を感動させられるのは、その者の性だけだと思うからです。」
という言葉に強く共感した。



デジタルの体温計に測られて誤りのない哀しさがある 


虹色の油に映るわが顔を見に行く汚染地帯の川へ  


傷ついて舞い降りてくるフラミンゴ戦わぬなら汚れて眠れ  


わが腕で父母眠れスリーパーホールド俺が血を絞め殺す  


わが母の垢浮いている浴槽に人は土より生まれる神話  


吹き荒ぶ海に落とした長靴に書かれてありしただ僕の名が 


美しき怒りのために閉じられている母の目も天金の書も  


ガード下貨物列車が過ぎて行き愛とはつねに揶揄されている  


看板を黄に塗り終えし下あまた石礫あり黄の斑点の  


突き刺され墓標のごときスコップとやさしき工事人夫の佇立  


叱られて泣き尽くしたる子がふいに老婆のように見える放課後  


成熟を拒絶したまま老衰のピーター=パンの勃起が止まぬ  


速達のため放たれて美しき獣のごとく来る郵便夫  


やや知恵の遅れたる君何百と小鳥を飼えばキリストに似る  


キリストを説く女教師がしみじみと見入る地球儀赤道付近  


それぞれの終わりへ向けてレフリーが数えるときの指の鋭さ  


死児いだき嘆くごとくに楽章を終える一人のヴァイオリニスト  


夜の冷え残れる石を投げつけるわが熱きもの宿らせもせず


 
                                         (「虹のつぶやき(82)」より転記。)