◆ ネット発表作品の扱いについて


 大辻隆弘氏が『短歌』4月号に寄稿した連作14首「表象の鹿」が、インター
ネット上で企画・実施されている「題詠マラソン」に出詠した作品だった(う
ち7首には、推敲が加えられている。)ことについて、拙ウェブ日記「毘紐天
☆カルキの生あくび」
4月9日付において言及したところ、大辻氏よりご自身の
掲示「水の回廊」で、「実はこの件については、この掲示板でも話題にした
ことがあって、自分でも気になっていました。」と反応があった。


 ネット発表作品について私自身は、クローズドの場を除いては広く公開され
ているという認識のもと既発表という立場でいるのだが、だからといって大辻
氏を糾弾するつもりは毛頭ない。短歌誌への投稿レベルでは「ネット発表=既
発表」となることは、某短歌誌へ問い合わせをして確認していたが、今回の件
はそれ以上に重要な問題を孕んでいるのではないかと感じたのだ。「題詠マラ
ソン」には、大辻氏だけでなく短歌誌から執筆依頼を受けるような歌人が数多
く参加している。また、この企画のみならず、多くの歌人がネットという「場」
を積極的に活用するようになった現在、ネット上に発表された作品についての
明確なコンセンサスが必要な時期に来ているのではないかと。


 「水の回廊」には、多種多様な意見が寄せられた。主な意見を挙げてみる。


 足立尚彦氏は、「ネット既発表」=「俗に言う既発表」という立場。文章中
に歌を引用する分には構わないけれど、稿料が発生する作品掲載についてはダ
メという認識。


 藤原龍一郎氏は、「メールマガジンとしての明確な媒体意識をもって発表さ
れているものへの発表は紙媒体と同様に既発表」、「題詠マラソンやネットの
日記、BBSへ書き込んだものは、再構成や推敲などの加工がなされて雑誌
(結社誌、総合誌、同人誌)に発表するのはかまわない」という考え。


 五十嵐きよみ氏は、総合誌の依頼原稿の場合、慣例的に「ネット発表ならOK」
となっているのではないかとのこと。


 また荻原裕幸氏は、自身のウェブ日記(4月20日付)で、「メールマガジン
ウェブマガジン、加えて個人のウェブ、こうした場所への発表は「決定稿」
だと考えるようにしている。逆に、メーリングリスト、BBSへの発表は「未
定稿」だと考えている。後者を印刷メディア(「商業」誌であるかどうかは関
係ない)や種々のネットメディアに「再掲載」してゆくという方法をとること
は、過渡期的な方法であるかも知れないが、いまのところ自他において肯定的
に考えている。」と述べている。


 このようにそれぞれが独自の考えとモラルのもと判断している状況というの
は、ネットという「場」にとって決して望ましいこととはいえないだろう。
(大辻氏の場合も、事前に編集部との間で「ネット発表OK」という確認はな
かったようだ。)これを契機に、ネット発表作品の扱いについて、ネット内外
で広く議論が交されていくことを期待したい。そしてネットという「場」の発
表媒体としての位置付けが今よりも明確になっていくことを願う。


 紙数が尽きてきた。私の考えは、まとまりのないままではあるが「ネット既
発表のとりあつかい (1)〜(4)」としてウェブ日記4月10日、12日付に
書いている。9日付に続けてそちらを読んでいただければと思う。


                       (「ちゃばしら」2003年5月号掲載)