(3/11記)
馴染みがたき人らと別れ会ひに来つ動物園の幼きカバに 金沢早苗
松平盟子になれぬと笑い合い飲みに行きたりノーブラのまま 森澤真理
へその緒を握り締めたる風体に犬と我がゆく山野行なり 武藤ゆかり
窓辺には黄色いベゴニア壊されてしまうくらいなら壊してやろう 大橋麻衣子
身めぐりの物にさまざま名のあるは愉しきか子の尋ねやまざる 春畑茜
俎板の鯉は口パク有線の演歌に合わせて「命くれない」 森田直也
羊水に浮かびて日毎太りゆく胎児はやがて母を殺める 津波なつ
ものに裏表人に立場それぞれ首かしげつつ朝刊を読む 井上時夫
みずからの重みに堪えているようなゴシック調の街灯が点く 佐藤りえ
長靴つきゴムのずぼんが石塀にがばりと置かれ秋の陽を浴ぶ 宮本田鶴子
タイ人のつぶやく日本語ふくらみて恋のはじめの匂いをもてり 梶田ひな子
酔つ払ひしせんせいの影を踏みあるく秋夜わかれはわれだけのもの 高澤志帆
捨て台詞を拾いに行くという決意もう一度立つスタートライン 村田馨
雨粒のひとつひとつにあおじろき戦争の火が育ちくる冬 守谷茂泰