(3/13記)

おはじきに触れた指先からめくれわたしはつるりと少女に戻る  天野慶



父の昏みに座薬を入れてバスに乗る手を石鹸の香に包ませて  生野檀



この身にも湯をかけ油ぬきしたき日暮れとっぷり重たくありぬ  荒木美保



鍋やかんバケツ無造作に置かれゐて金物店はしづかな眠り  野久尾清子



ダンボールの箱がねぐらのホームレス物乞わざれば乞食にあらず  竹村幸雄



猫嫌ひと言ひつつ歌題の無き時は猫の歌詠む我もこずるし  福島敏子



生駒山より大阪を眺めれば霞むかすむあの中に住む  猪幸絵



唱和する「正信偈経(しやうしんげきやう)」室(へや)に満ち亡き夫とまがふ義弟の声  坂口香代子



白秋と茂吉の晩年想ふゆふ白秋清し茂吉の凄し  後田好秋



街は人が、田舎は神が造りしとう竹久夢二の童話の田舎  杉深雪