■
休日のおそき目覚めの夢うつつうすももいろに放火のニュース 川田由布子
AVと聞くとき何故か浮かびくるナチ親衛隊の器械体操 武下奈々子
定住のあの人かの人夕焼を背負ひて帰る平和であれよ 大和類子
子供向けテレビより今日も聞こえ来る「雨ニモ負ケズ」は何故か痛ましく 早川志織
生きてゆく違和と孤独はあるだろうタヒチの島に生まれようとも 木曽陽子
水枕がばりの海とはこんなふう老いたる猫を抱いて居れば 高野裕子
ゴキブリが札幌地下街にいたという仰天ニュースを知る人もなし 諏訪部仁
捐はすてるの意と知りてなほぎえんきんの字は飽く迄も義捐金に執(しふ)す 大森益雄
九十二の片山恵美子さん五箇所持つ短歌教室の一つ下され 中地俊夫
いま夫を殴り殺した老妻に響きわたりてくる除夜の鐘
ピースの指二本はヒロシマ・ナガサキと知らず愚かに俺日本人
死に場所は公衆便所 落書きの「死ネ」「バカ」「殺ス」へ詩を書きくわえ 八木博信
あたたかき冬、リボンさへほどかずに見殺してゐる花束ひとつ 多田零
不正請求ならねど突然に工藤熊五郎商店より請求届く 泉慶章
<私は誰でせう>を見て
聡明な貌を消さむと五十年小池比加児の永きいとなみ 大橋弘志
チンチラのコートのローン終ったっていうじゃない暖冬残念 岡田経子
屠蘇が胃袋に沁みわたるあいだにひとわたり家族の顔を見ておく 菊池孝彦
仏壇のとびら終日ひらきおきわれもしばしば出入りしてゐる 明石雅子
東北弁と言ふな北方日本語と言へ 北方日本語はあるときに刃(は)ぞ 小池光
赤マント・口裂けおんなの実在を佐々木喜善にこそ問いたきに 藤原龍一郎
愛するは枝垂柳の重さゆゑややぎこちなく体位変えみる 西王燦