大阪の水道水の水を手に満たして人のかたちに蘇生  猪幸絵



山々の稜線女の肩のごといだきて伊豆の淡雪ふりぬ  有沢螢



コンビニに買ひたる菓子の箱なかゆ出づ極彩のぶつざう一つ  佐藤大



放たるる獣のごとくフェリー蹴り師走の街へトラック消えぬ  石井庄太郎



かぎりなく聖者に近きピエロ坐す ルオーはわたしを半分こばむ  佐和美子



隕石のかけらを欠けしわれの歯に埋めくれし人を目覚めて思ふ  助川とし子



編みあげて知る色の彩フェアアイル島の羊は海草を食む  水田よし枝



組立てて建てるが家ゆゑ壊すとは言はず「解(ほど)く」と棟梁の意気地  竹浦道子



ポケットに隠されゐたる両の手の十指そろうてをらぬやもしれず  平居久仁子



水仙の香の過ぐる時「さよなら」は光集まる言葉と思う  吉川真実



落ち葉して再び芽ぐむエネルギー人にもあらばと掃く手を休む  福島敏子



歌人の新しき表紙大好きと暖房とめてわれ胸に抱く  中山邦子



跳ねてゐる形で鯛は店先に冷凍といふ寒さ背負ひて  栗林菊枝



一年を大河ドラマに引き込まれ信念と無念の重さを知りぬ  阿部美佳



スワヒリ語の文法ぐらいにわからないカロリー0のコーラのしくみ  天野慶



「大きくてグランドピアノのようでした」子の思い出の園長先生  渡辺幸子



ビニル袋わが前に来て動かぬを見届けてからゴミとして拾う
降ることになっているから降るんだと何の迷いもなくて降る雪  森谷彰



太陽のたくましい腕から逃げてバスの片側だけ混んでゐる  
蚯蚓蚯蚓町と連呼する運転手さん清水町だよ  生野檀



終夜バスにわが眠らざれば流れ去る黄色黄光赤色赤光緑色緑光(わうしきわうくわうしやくしきしやくくわうりよくしきりよくくわう)  矢嶋博士



果物の葡萄に色の文字記せば読みはエビイロ日本語の妙  川粼義一



北海道で地震があれば北海道らしい地名が並ぶ速報  松木