二千余年生き続けたる大楠に何でも呑みこむ洞が口あく  遊亀涼



どうしても避けて通れぬところあり流しの前の床きしむ音  高木律



小学校の机のなかでとこしへに三角定規とがりてをらむ  松野欣幸



わがこころ問はれてゐたり青さぎのつね一羽なる川のあけくれ  川井怜子



ファブリーズといふ毒つける人増えて擦れ違ふたびくたばるわれは
書初めはただ○(まる)を書くボサボサの太き筆持ち大きな紙に  白山太郎



悲しみの最大級の比喩として赤方偏移を解説している  久保寛容



黴びていた蜜柑のように悲しげに中途退室された理事長  宮田猟介



学校の窓ガラス割り捕われた子供の夢は介護福祉士  田所勉



くもりなく磨きあげたる銀の匙かがよふものは哀しかりけり  竹内タカミ



両腕の細さいとわずはだかるに踏切の竿震えていたり  郄橋とみ子



着脹れて遠くなるのは冷え切った空気ではなくあなたとの距離  松村厚子



ロードオブ the 眉間を風が吹き抜けるこの肉塊を捨てにいく旅  宮西勝子



水平は垂直よりもやさしいとブラインド越しの空眺めゐる  岩橋佳子



歌などは詠まぬ男のほうが良し非凡というは痛々しくて  佐々木ゆか



正と負がさいごは零の人生と三輪昭宏の紅き唇  桂はいり