崩落のやまぬ氷河の裂け目より神さぶるまで青き核見ゆ  洞口千恵



祈りとは地軸に激しくひびくものカイラス巡礼身を投げすすむ
揺り椅子にそつと座ればみすずかる信濃の祖父に抱かれし記憶  和田沙都子



認知症に括弧でくくって添えられた「痴呆」が消える日はたぶん無いはず  幕田直美



わが町の深き入江に軍艦は構築物のしづけさに浮く  みの虫



地下鉄の通路あまりに明かるくて不意に危ぶむわが存在を  小林登美子



「金井駅」「東小金」とどちらかの蛍光灯がいつも消えてる  天野慶



デパート地下に居並びながら美(は)しき名に負けてゐさうな焼酎ばかり  大越泉



一冊のものがたり終えその後にはじまる長きひとりの時間  阿部美佳



ほほづゑをついて考へゐるひとのその傾きの影なる地軸  水田よし枝



メモ紙に<畑にいます>と書き置きてちょっぴり宮沢賢治の気分  助川とし子



永らえて身を捨つるべき地もあらず国歌を唄う機会もあらず  関根忠幹



地下都市に薄くイコンは残りおり微かに息をしているような  荒木美保



生き残るって難しいわということの早い話がマツケンサンバ  松木



登録をしてから一度も届かないメルマガもある虚(そら)みつやまと  矢野佳津



天界と人界隔つるごとく在る寺の大きな賽銭箱が  御厨節子



月あかり夕みづ明り雪あかり彼の世というはいかなるくらさ  上原元