被害者は「男性」と言はれ加害者は「男」と言はる朝のニュースに  柴田朋子



千手観音の騒がしき手よ人間にもつとも近き仏とおもふ  みの虫



海賊に亡き夫返せと札束を抱へて叫ぶわれ夢の中
不思議なる思ひにからるる後書きよ作者とは常に礼を言ふ人  中山邦子



触るる手に木肌は伝える既にして春は地中の水に潜むと  井上孝太郎



宵越しの銭残すなと言いし友入墨のこして死んでしまえり  竹村幸雄



わびしさは遠距離列車発着のホームのはずれにある啄木碑
啄木の歌碑尋ねしを駅員は我に教えき井沢八郎歌碑     本田翠



世の中のあらゆることに腹立つ日ショーペンハウエル無性に読みたし  高山路爛



真夜中の湯槽にとどく隣り家の妻があかるく酔ひてゐる声  竹浦道子



オキーフのように老いたいいつかゆく荒野で風が吹きあれている  天野慶



リュックサック症候群といふ病ありすべてひとりで背負(しよ)ひ込むらしき  大越泉



また春が背中に迫り追ひ抜くよ桜を焼きし犯例ありや  生野檀



再生の儀式のごとく満開の桜の下を静かに歩む  吉川真実



並ぶ・待つ・並ぶ・歩く。並ぶ・待つ・並ぶ・観る。……「愛・地球博」  高屋興子



貝を煮るときのいつもの罪ごころうちあけられる相手もなくて  谷村はるか