七歳のうでまつすぐに挙げられてちひさきゆびもあがりたりけり  矢嶋博士



古き社に続く細道自転車が自動車(くるま)従えゆるゆると行く  山田幸



夕暮れの路地にまつ赤な櫛拾ふつくづく永井陽子の心地  助川とし子



うつすらと頬の生毛をひからせて少女が盆に枇杷をのせくる  中山邦子



狂人、部落出身者は神社法に靖国神社に合祀ならぬこと  みの虫



濃緑の深夜テレビの黒板に二次方程式解かれゆくなり  大越泉



どちらにもつかない者は白線を踏み外さずに姿勢よく行け  猪幸絵



品性を何より示すは手なるぞと解剖学の教授のたまひき  高山路爛



岡井隆ミッキーマウスは同い年どちらも不自然に元気なり  松木



パラソルは黒から銀へ進化せり獰猛な陽を撃つ武器として  若尾美智子



工藤直子の詩が隅っこにあるような春の茜の空はやさしき  前田靖子



人の手の入らぬままの大杉に千手観音(せんじゅ)の慈手のごとき枝々  会田美奈子



綾取りの手をばするりと抜きしまま友は帰らぬ旅に出でたり  坂口光


     ☆


◆<卓上噴水 116>より


「同窓会」佐藤大
すでにわれ壮年(さかり)のよはひ過ぎたらんダチュラの白花下向きに咲く
荷台に折れ釘のごと眠りゐる子をのせ自転車は橋むかうに消ゆ
玉手箱あけたるごとく同窓の友の顔にぞ見入るかたみに
囚はれの窓にみしかばなほ美(は)しからむこの薔薇疹のごときゆふ空
感情の鬱勃は来てあさつゆにぬるる草はらに犬走らしむ