指先がゑがく螺旋にまどはされ蜻蛉(あきつ)のやうに恋におちたり  高澤志帆



すれちがふ。なべてちがふといふことをおもひしるためたしかむること  花笠海月



金を請う手紙に才の煌きて啄木体重四十四キロ  森澤真理



極まれる暑さを吊りて起重機は雲の峰より高く伸びたり  山下柚里子



「寿命です」ひとこといわれ電動自転車ただの重たき自転車となる  磊実



その昔ひぐれをしみと祖母告げしカナカナは啼く日暮れても啼く  山中重子



何時の間に展示ケースに納まれる我の目球(めだま)か我を凝視す  おのでらゆき



恐竜の卵化石は焼き上げしパンのごとしもほこほこ並ぶ  秋田興一郎



袋より桶に移せばもぎたての梅たちの私語どっと聞こゆる  菅ふみこ



カーテンは風にふくらみその裾は「北一輝論」を撫でてゆきたり  田中浩