◆受賞作
「メッセージ」倉益敬
穏やかな春の岸辺にフィルムの日付のごとく鷺は動かず
週明けを鰯となりて連鎖的通勤時間帯の人波
年輪といふ輪が見えるなごり雪流行りし頃は痩せてゐたりき
ゆく秋にどぜうすくひを踊りゐる絵柄の電車が通り過ぎたり
街灯に浮かびては消ゆる影ひとつ引きずりながら太りてゆきぬ



◆佳作(3篇)
「亡霊の都」長谷川莞爾
白象のごとく汚れて円柱が立つ廻廊を抜けてきたれば
夕雲のうすきむらさき濃むらさき野佛はどさり寝転びたまふ


「春から夏」大森浄子
さみどりの蔕持ち上げて流水にトマトを洗ふ赤子のやうに
井戸替への男はたらく傍らの無花果に白き樹液はめぐる


「Acid rain」佐藤りえ
既にあるものを諾うひとたちへ Acid rain しみじみと降る
血中にやまとごころの残滓あり すぐに手足の合う盆踊り