■
母という器哀しき子の嘘を見抜くことなどできずともよい 荒木美保
ふるさとの冬のひかりに影あそぶ木の葉は土にわたしは石に 会田美奈子
遠吠えのような風吹く夕ぐれのすすきは白い狼である 森谷彰
真直ぐに逃げるしかなき野うさぎをヘッドライトのなかに哀しむ 久保寛容
注連縄に御幣をたらし石据えて不法投棄を止める町あり 新堀恭子
これ以上剪り詰められぬところまで切られし欅ぽかんと立てり 牧尾国子
来し道をバックミラーに映しつつ道に迷へり秋の四つ辻 柴田朋子
なくように軋みつづける蝶番の音もさびしく秋ゆかんとす 平林文枝
一人居のわが家(いへ)なるにふと誰か帰り来るかと思ふときあり 寺本きよ子
ジバクだのギャクタイだのと告げまくるテレビの陰できりぎりす鳴く 藤田初枝
みのもんたの言葉の誤り正さむとTBSに電話する父 洞口千恵
手紙への返事くれざるひとりから喪中葉書が律儀に届く 関浩子
(2007.2.6.記)