よりそひて息子夫婦は帰りゆくあのやうにして老いてゆくのだ  竹内タカミ



蓑虫の赤子は風にゆゆゆよん中也忌の闇やさしく揺らす  佐藤綾子



耳鳴りは楽しみとせむ幼き日母が鳴らせしほほづきが鳴る  佐久間巴



外来の水草の株のふゆるままわんどの底にひそめるいのち  梅田由紀子



蕎麦の花裏の畑のさみしさは歯を磨くとき歯茎にしみる  菊地威郎 



千円の不具合の傘かへし行くわたしを夫は怖いと言へり  川井怜子



念願の万年筆を手にとりてこころの声に耳をすませる  小澤洋美



俺はもうポルノ男優で終るのか風間杜夫の嘆きのカツ丼  黒田英雄



シルクロードの嬰児木乃伊を見にゆかん木通のごとくくるまれゐしを  高島藍



電飾の首輪点滅させながら犬らしきものが夜を曳かるる  八木明子



秋の夜の味噌キムチ鍋うまかりき娶らぬ子らと夫と四人の  洲淵智子



若からぬ漕ぎ手のうたふバリトンはひときは響く橋くぐるとき  太田千世



                                                   (2007.2.7.記)