猿蓑の文庫を開き地下鉄の光に溺るるごとくに眠る  守谷茂泰



iPODぶらさげながら本当は見えない過去をぶらさげている  廣西昌也



人間の都合で移転させられしポストまで行くわが哲学の道  宮本しゅん



前からも横からもメール打ちながら輪を縮めくる真中におりぬ  ふじきけいこ



茎ふとき菠薐草のくれなゐの根のごときもの持ちたしわれも  服部みき子



めん棒の動きに従うクッキーの生地のされるがままを羨む  大橋麻衣子



六日目を過ぎて七日目大相撲九州場所を見てやるテレビ  柏木進二



神社あり蛇の交尾の姿とふ注連縄(しめなは)つける杉の大木  椎木英輔



幼子は十指にあまる友達を唄うように言う名から姓まで  菅ふみこ



花林糖嚙めば響けり居心地の良くも悪しくも父との時間  織田梨花



四季ごとに棚の書籍を並びかへ楽しみゐたる父のうかび来  加藤満智子



靴音と連れ立ちてこし静寂はパチンコ屋の前でときのま呑まる  佐藤大



深みゆく秋を素直に受け入れて犬の毛並は厚くふくらむ  遠藤今曜子



しなやかに犬避けて犬走り抜くドッグランとふ檻の中側  高崎愼佐子



子供らのいさらいのせしそのあたりふらここにふる月光深し  野村千惠子



わが母と同じ病に逝きにける本田美奈子の歌ごゑは沁む  稲吉佳子



おおぞらの記憶容量限りなし雲は声紋さよならまりりん  武藤ゆかり



林檎林檎林檎つづきの荷の中の林檎それぞれ青空を知る  岡田悠束



天使大学」北海道に実在す 看護学科と栄養学科  松木



最高の褒め言葉とし朝刊はまだ書く「日本人離れした……」  若尾美智子



雨も傘も歩める人もひたすらに傾きたるを窓にみてゐつ  佐々木通代



冷蔵庫がイキガタガタシとうなりたり明日も生きよう真夜中の部屋  高澤志帆



                                                      (2007.1.28.記)