夢路にて辿る家路も消えていて姫路駅より西へは行けぬ  木戸真一郎



逝きてなほ夫はわたしの守り神大きな長靴玄関に置く  志田節子



ぐずり泣く子にその母は印籠をさし出すごとく乳房(ちち)を見せたり  高木律



アルバムに仏頂面の残りゐて今なつかしむ子の反抗期  荘司竹彦



左手の親指上に両の手を合わせて酒を飲まずに暮らす  田所勉



ひとつひとつ虚礼を廃止した後ののっぺらぼうな空間に住む  山本照子



我のことわかった振りの先生の批評にたえる歌はうたわず  大石聡美



天に球を投ぐる大道芸人の目は幾何学の宙を見すうる  松野欣幸



乗客の数だけ傘ものり込みて雨天の電車は内さへ濡るる  八木明子



「しんぱいなしーしんぱいなしー」とふダイマルの声よみがへる心斎橋駅  梅田由紀子



秋の雨つづきて今日も置き去りの資材置場の黄のヘルメット  小野さよ子



思はずもわれが蹴りたる空き缶に街の暗闇一瞬動く  森脇せい子




                                                   (2007.1.26.記)