花束から花はらはらと落とすごといろんなことをあきらめてきた  西橋美保



裸木となりたる欅を仰ぐたびしずかに胸の磁石が揺れる  守谷茂泰



とぼとぼという足音を実践す我を笑えよ鉄腕アトム  森澤真理



めずらしく雪降りてくるよたよたと伝い歩きの子の歩むごと  磊実



良くできたお伽話と思うまで健康食品体験発表  武藤ゆかり



見え透いたうそつく女が今日も又小銭を借りにチャイムを鳴らす  田所弘



現金をお受けとりくださいATM言ってわれらはものを言えない  柏木進二



霧雨にヘッドライトは揺らぎつつ照らすすべてを敵と見做して  猪幸絵



凍天を研ぎつつ立てる裸木(はだかぎ)の形相を見す「ムンクの叫び」  大場恭子



天変地異次つぎ起れば唱えおりそどむとごもらそどむとごもら  上原元



無事一年家賃を払ひをへたりと極まり月の部屋に寝転ぶ  高澤志帆



あをぞらの奥より出でし手は凧と凧あげる子を吊りあげにけり  西橋美保



ティッシュの箱にレースのカバーをする吾と小犬に服を纒はす人と  三木伊津子



テイッシュクレとはトルコの謝辞とカーン氏はまず皮切りの笑いとりたり  栗明純生



トンネルの暗き視界ゆ海面の乱反射見ゆひかりゆたかに  織田梨花



まはだかのうしろすがたのりんかくのかすみがちなる春の稜線  花笠海月



表札に「梅岡」「春日」「匂坂」迷ひ入りたる道すがすがし  稲吉佳子



触れたればかすかに動く蟷螂の死に至るまで陽よぬくくあれ  山下柚里子



銀盆の苺ムースが売り切れて早緑月のゆうぐれ来たる  若尾美智子



 

                                                   (2007.1.25.記)