あのおんなの産んだ子どもも人間のかたちしていることにふるえる  津和歌子



声立てて吐き出す息の白さにも感情のある朝のみちゆき  芝典子



オリーブの葉裏のいろは五月まだ人を信じていた季(とき)のしろ  山本じゅんこ



ルビふりて無理むり一首に成すごとく事故車に乗りて帰りきたれり  上杉諒子



(後朝の湯)とふ暖簾をくぐりたり廊下の果てに夫とわかれて  柴田朋子  



一葉の美貌を惜しみ皺の寄る五千円札そっと撫でたり  杉深雪



斎場に衣がへしたパチンコ店さくらホールの壁の桃色  楠藤さち子



ファーイースタンエコノミックレビューにある記事を童話として読むこの街に来て  矢野佳津



人住まぬ家の山茶花咲き盛り縦横無尽と言ふも寂しゑ  牧尾国子



日本人の脳天気指数とおもふまで年ごと増ゆる電飾の数  洞口千恵



クリスマスイブも働くフェラガモのドアマンの彼に祝福よあれ  魚住めぐむ



来年は今夜のつづき東海道本線のレールまっすぐ延びて  森典子



つきたての餅を分けむと両手から白きたまごを生みつづけたり  菅八重子



元旦の庭下の蝶いとおしき去年の落ち葉の上に震える  久保寛容



うからやからも所詮は他人むらむらと湯気たつ風呂に身を沈めいつ  青木ルリ子



ひやくごじふせんちにみたぬおほははのほそりてつひに壺におさまる  水田よし枝



     今在らばブログに夢中に
指先が世界に言葉を放つこと嗚呼啄木は露知らず死す  和田沙都子


 

                                                   (2007.1.24.記)