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水溜りいつもの場所に時どきの空を沈める無意味なへこみ 伊藤壽子
纏りゆくひと針ごとにしんしんとひとりの夜にしずけさ充ちぬ 荒井孝子
恋多き母なればこその必然や庭に池掘り鯉泳がすは 黒田英雄
置き去りのゴムまりのごと母の背はふっくら丸し日溜りのなか 木村悦子
母親の忙(せわ)しき歩み変わりなし遅れてついて行く初詣 泉山和美
秘密結社の一員のごとカスピ海ヨーグルト菌夜々にそだてる 越田慶子
ヨーグルト菌三年生かしてゐると言ふひとりの友をひそかに恐る ラダック恭子
五万円の犬のおせちがあると言う金粉まみれの糞をするらん 山本照子
二の腕にプラスチックをひからせて松葉蟹かしやかしやと寄り合ふ 河村奈美江
メロンの網スイカの縞と決めかねてただのマルなり手帳の落書き 染谷美沙子
浅田真央もの言ふ面(おも)は幼かる源氏物語紫の上 森脇せい子
このくにの人々の数減少に転じき去年のとある一日に 野村裕心
くらやみの道行く車のナビをみて海山の位置知る不思議あり 平松順子
抗鬱剤どさりと飲んでゆっくりと殺戮ゲームをはじめる昼間 花森こま
(2007.1.23.記)