たましいを迎えるように外套を開き温めるニコンF2  森澤真理



箱に戻るのは嫌だと叫びし腹話術の人形見てのち家へと戻る  西橋美保



天井のしみと中年の繰り言は似ていると思う口には出さず  山粼泰



小さき町に小さく暮らす私もガラスの靴を時折磨く  柏谷市子



大切に腐らせたりしひとつぶの桜桃あれはあなただったか  内山晶太



今とてもたしかなものに触れたくて左手首の時計を摑む  佐藤りえ



ゆっくりと卵の殻を剥くようにうた一つずつやわらかく読む  おのでらゆき



黒インクでは満たされぬ肯定の思いを記すブルーブラック  宮岡陽子



猫の声と赤子の声のいづれかと耳より覚めて春のあけぼの  下村由美子



立体を展開図へと切りひらく資源ごみの日ハサミが生き生き  紺野裕子



よく笑う女の顔がテレビからはみだしそうな早春である  田所弘



きつかけのなきゆゑいまだのみこめぬ生烏賊に似て会話は続く  服部みき子



うるわしき情に違いはなけれども母恋いは声ひそめて語れ  武藤ゆかり



その夢に指令ありしか地下鉄に眠れるひとが目覚め降りゆく  若尾美智子



雪抱くごとき玄の字薄墨の滲(にじ)みて訃報の葉書が届く  矢野千恵子



この空をけさがけに斬り太陽の顔拝みたし寒波襲来  田中浩



ライブドアとオウムは似る」と語りけり東浩紀と小池光が  松木



 

                                                   (2007.1.19.記)