大雪の気配ただよふ上空に冬の背骨のふとぶととあり  洞口千恵



熱のあるまなうらふうと夕焼けて母を追う子が駈けるまぼろし  関根雅子



鬱の日は「この野郎め」と切りつけてみんと買ふなり厚きビフテキ  正藤義文



苦行僧のあばらのごとき篭の中ゆうきだいこんてんしんらんまん  会田美奈子



天牛を捕へし指がこそばゆし課題図書なるページを繰れば  大越泉



爪楊枝のやうなしづかな友ひとりジャングルジムに空を見てゐき  和田沙都子



歩けるを喜ぶごとくロボットは膝少し曲げ調子とりゆく  渡辺幸子



ぬるぬるの鮭のたまごの感触ぞ卵巣をもつ猫撫で声は  佐々木和彦



何万円の汗、何百円の汗もある 汗は知らない何千万円  森谷彰



百円で買ひ求めたる庭箒もう十円分長さが欲しい  冨山妙子



家庭滞在(ホーム・ステイ)に子が携へしわれの歌集いかになりゐむ時をりおもふ  安達正博



母を寝かす真昼の悲哀は庭すみの乙女椿に染みてきわまる  久保寛容



病室の膳に添へあり節分の豆を模したるボーロが数個  関根静江



吾が労をねぎらふためと子等寄りて呆けたる夫の米寿祝ぐ  原田美代子



深夜より雪降り出せばわが家の灯りも絵本の町に加わる  吉川真実




                                                   (2007.1.20.記)