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鳥あまた死にける春の街中にここより始まる犯人探し 大場恭子
イレウスとふひびきは異国の神の名のごとし青年医師の言ふとき 下村由美子
五年前に憎みし女の唇のかたちにも似て鬱金香(チューリップ)咲く 有沢螢
遺失物と称(よ)ばれゐたればこんなにもしほたれてゐる吾が冬帽子 山下柚里子
春愁と眼鏡の曇り拭いつつプラットホームの端に立ちおり 村田馨
たはむれにステッキをかつぐ かくのごと銃を肩にし行きし日ありき 伊藤俊郎
出棺に釘は打たれず涙する機会うばわれ黒塗りに乗る 井上洋
いつもいつも鳴っているのに聞こえたり聞こえなかったりする時計の音(ね) 松木秀
葬の家へ村人たちは集いくる蜜蜂のごとき黒き頭を寄せ 守谷茂泰
雪消水奔り滾れる広瀬川 こころ弱りはちかづくなかれ 服部みき子
愛するは桜花(さくらばな)より溝鼠、吉川宏志より山下雅人 岡田悠束
短歌人に送るカンパの手数料七〇円から百円となる 田所弘
(2006.12.30.記)