武富士のポケットティッシュを詰め込んだ箱を残して母は逝きたり  池田弓子



牛乳パック三十個分を切り開き重ねくくりてはればれとせり  織田梨花



観覧車ひと回りして戻る場所ミナミは見下ろすかいのない街  大橋麻衣子



蝋燭の炎の揺らぐ絵を見たる一日は言葉少なに暮れる  守谷茂泰



あかねさすひとりで着いたテーブルに数十人のための箸立て  佐藤りえ



     「今行きますだ、旦那様」
曇天に綿を摘みたる黒人の吹き替え常に東北訛り  森澤真理



「兵」といふ名を「つよし」とぞ呼ばれきて昭和十七年に生れし人はや  杉山春代



ピッチャーにお尻を向けてホームベースの土を刷毛にて払ふアンパイア  田中浩



朝火事に町内中の人が出づこれ程の人が住んでゐたのか  宮本しゅん



おしやべりなその唇へつぎつぎに餃子消えゆくさまを見てをり  服部みき子



あたらしき肛門はひとつぶの南高梅置きたるごとし父の腹の上  下村由美子



北半球のいちばん昼が長い日に亡くなりにけり近藤芳美  松木





                                                    (2006.12.24.記)