夜の水に昆布をひたし朝までの過ぎゆく時間水屋にとどむ  真木かずさ



つくづくと十指きたなくパラフィン紙よそほひてゐる本を取りだす  多田零



ただ水を出す器にとなり果てむししむら、夏の膝下にありて  生沼義朗



自転車のチューブに密閉されをりて空気くるしからむ炎天の下  小池光



一本を天に向ければ四本はしなだれ滴たらすゴム手袋  北帆桃子



トラックより落ちし毛布はハイウェイに狸となりて寝転びにけり  岩本喜代子



はらわたをさらけ出したる石の塊ノグチがわづか手を加へしに  本多稜



やや頽れゆきたる肩に五円玉載せられ地蔵菩薩は佇てり  斎藤典子



たましひの漢字出てこぬ数分を書かれし鬼が途方に暮れる  古川アヤ子



マタンサの子豚の裔と人の裔くろき目あいぬ食卓にして  多久麻



遠慮なく歌評を言ひて帰り来ぬ禊のごとく風呂に入りゆく  永田吉



一升瓶の中にぶあつく酒あれば貧しきこころ充たされてをり  大橋弘



北国の小さな町に枇杷の実を食べて大きな種を残せり  西勝洋一



上げるなら世界に上げよ体育館裏での花火なんて一(ちんけ)だ  大森益雄



祭壇のごときリングを組むレスラーたちよ傷つく自らのため  八木博信



                                                     (2006.12.17.記)