水を打ちまた水打ちて聴きており夏日に灼けし庭石のこえ  上原元



選りて買ひししのぶの風鈴わが軒につるせば我が家の音に鳴りたり  青木和子



悪声と気づいてしまう 原爆を語る小百合の白きブラウス  森澤真理



出てこない飴を取り出すために振るドロップ缶の穴底暗し  佐藤りえ



雨の日の郵便受けへ入れた手は生きものに寄りそわれる予感  猪幸絵



左手に麻痺の右手を親鳥のごとくつつみて父眠りをり  下村由美子



乙女子のか細き腹にハンバーガー三箇が消えるまでをつい見てしまふ  伊藤俊郎



「生まれくることこわくないよ」と妻の腹心病みたるわれが触りぬ  森田直也



未来だの平仮名だのに名を変えて自ら壊れゆく郷土愛  武藤ゆかり



大げさに相槌をうつ女いてつられ首振るうちに酸欠  大橋麻衣子



腰立たずなりしは彼岸へ急ぐなと言う知らせなり妻よ頑張れ  大岡拓也



                                                     (2006.12.17.記)