わたくしのははであるから困るのよ爪などのびし手をみたときは  朝生風子



この家に病む人在りといふやうに石塀の上猫すれちがふ  野上佳図子



じょうろへと光を集めひとすじの虹を発する朝の水やり  里川憐菜



弾みつつゴミ収集車過ぎゆけりのみ込みきれぬ段ボール見せて  脇山千代子



原色に遊具塗られし幼稚園 その中の砂のままなる砂場  萩島篤



水鳥のうつむく象(かたち)にかしぎつつ百合の莟は雨音あつむ
ひらきたるふうせんかずらの白花は撒かれし塩のあかるさ放つ   荒井孝子



うしの日の二三日前のうなぎ屋は一人でうな重を食べる人多し  青木静子



押しあててひたとナイフを研ぐ時の男なまめく血管を持つ  
濡らしなば夏の砥石は冷としてふと思い出す唇がある    立原みどり



スカートをふくらませつつ座り直す幼きしぐさのわが妻である  森俊幸



われも子も生産性の薄きゆゑ天から降つてくる金をまつ  阪本まさ子



手も足も二本でバランスとっている心もきっとふたつあるのだ  山本照子



吹雪く夜の風をききつつ旧約を読みをりヨブの試練はつづく  田中愛



往生をするに九品(くほん)の階位あり浄土といへど格差の社会  荘司竹彦



                                                    (2006.12.19.記)