ほくろまで流されさうなる汗流しメロンその他の受粉してきぬ  林とく子



愛想よき笑みを残して町内の一万歩を行く男が通る  原田美代子



手漉き紙ふうはり飛んだやうな空夕月が白いまま浮きてをり  栗林菊枝



目のあらぬ豆腐のサイコロぱらぱらと鍋へ入れつつ三十代過ぐ  柴田朋子



もし良ければきみの苗字を借りてあげる「京セラドーム大阪」みたいに  津和歌子



首都高湾岸線(ワンガン)を疾駆するときニンゲンハヒトリガイイとつくづく思ふ  藤田初枝



雨上がりのそら貫いて鵯の声はひとすじひかりを集む  平林文枝



山頭火が放尿をした若草がたしかにあったと語るリディアは  川口かよ子



好き、嫌ひ、好きのみ盛りてゆく我を拒否せぬホテルの朝のバイキング  上杉諒子



知らぬ間に輪の真ん中に踊りをる違ふ違ふと低く叫びて  中山邦子



両の手を揃え餌を食むエゾリスはつつましやかに足も揃える  中川厚子



帰るためのバスを待ちおり何処へでも行けるはずだと出でてきたのに  荒木美保



コーヒーを淹れて待つ間のひとときを我は愛せり飲むことよりも  菅原和江



宗教も人を救えず明け方に僧は飛び降り自殺を計る  高山雪恵



外界を知らざるわれの心臓のはかなき営為を機械は記す  洞口千恵



                                                    (2006.12.19.記)